「正論」が通らない会社

「正論」が通らない会社 ― 議論を封じる“見えない壁”

「正しいこと」を言っているのに動かない現場

経営者からよく聞く悩みに、こんなものがあります。

  • 「どう考えても正しい提案なのに、社員が動かない」

  • 「筋の通った議論をしても、結局は沈黙で終わる」

  • 「合理的な改善案を出しても、なぜか現場に受け入れられない」

社長の立場からすれば「正論を言っているだけ」なのに、それが通らない。社員が無関心であったり、曖昧な返事で終わったり、時には反発すら見せる。

ここに存在するのが、「見えない壁」です。


“見えない壁”が生まれる理由

社員が「正論」に反応できなくなる背景には、心理的な圧力や経験の積み重ねがあります。

  1. 「言っても変わらない」という学習
    以前に意見を出しても握りつぶされた、無視された、逆に責められた――そうした経験は社員の中で「どうせ言っても無駄」という学習になります。

  2. “正論”が脅威になる
    社長にとっては正しい提案でも、現場社員にとっては「自分たちのやり方を否定された」ように感じられることがあります。正論は論理的に正しくても、人の心にとっては“攻撃”に映る場合があるのです。

  3. 「安全」がない議論の場
    誰かが意見を出した時に、反論や批判が返ってくるだけで「守られていない」という感覚が広がります。すると、その場は議論の場ではなく「口を開けば傷つく場所」になってしまう。

こうして「正論を言っても通らない」状況が組織に固定化していきます。


経営者の“正論”が逆効果になる瞬間

経営者は往々にして、論理や数字で物事を整理します。もちろんそれ自体は重要です。しかし、次のような言い方をすると「正論」が社員を黙らせる凶器になってしまいます。

  • 「それは合理的じゃないだろう」

  • 「数字を見れば一目瞭然だ」

  • 「そんなやり方では生産性が落ちる」

一見正しい指摘ですが、受け取る側はどう感じるでしょうか?

「自分の考えを頭ごなしに否定された」
「どうせ自分の経験や事情は理解されない」
「社長の答えが最初から決まっている」

こうした認識が広がれば広がるほど、正論は組織を動かす力ではなく、“議論を封じる壁”となってしまうのです。


議論を生む「正論」の使い方

では、正論をどう扱えばよいのでしょうか。ポイントは「正論をぶつける」のではなく、「正論を対話の入口にする」ことです。

1. 疑問形に変える

  • 「このやり方だとコストが上がると思うけど、現場ではどう感じている?」
    正論を提示しつつ、社員の意見を引き出す形に変えることで“対話”が生まれます。

2. 背景を聞く

  • 「この方法を続けているのには、何か理由がある?」
    現場には現場なりの制約や工夫があるものです。まずそれを理解しようとする姿勢が、議論を前に進めます。

3. 一緒に検証する

  • 「数字の上ではこう見えるけれど、実際にはどうだろう?一度一緒に確認してみよう」
    「押し付ける正論」から「共に探る正論」に変えることで、社員は意見を出しやすくなります。


経営者が意識すべき“空気づくり”

正論を議論につなげるためには、「言っても大丈夫だ」という空気、つまり心理的安全性が不可欠です。

そのために経営者ができることは、意外にシンプルです。

  • 否定から入らず、まずは「なるほど」と受け止める

  • 意見を出した社員を評価する(結果ではなく姿勢を褒める)

  • 結論を急がず、問いを残す

こうした小さな積み重ねが、社員にとって「言える空気」をつくっていきます。


まとめ ― 正論は“道具”にすぎない

正論は大切です。しかし、それだけでは人は動きません。
むしろ「正しいこと」を振りかざすほど、社員の口は閉ざされ、議論は止まり、組織は硬直します。

経営者に必要なのは、正論を“武器”ではなく“道具”として使うことです。

正論を入り口に、社員の声を引き出す。
正論を土台に、共に改善策を探る。
正論を対話のきっかけに変える。

この姿勢が、「正論が通らない会社」を「議論が生まれる会社」へと変えていくのです。

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