―「育てよう」としたはずなのに、社員が萎縮していく理由 ―
「もっと育てなきゃ」と思うこと。それ自体は経営者としてとても立派な姿勢です。
多くの社長は、社員の成長を真剣に願っています。
「このままだと社会で通用しない」「もっと考える力をつけてほしい」「一人で判断できるようになってもらわないと困る」——そうした思いで日々接している方も多いでしょう。
しかし、もし「育てよう」とするその姿勢が、逆に社員を萎縮させてしまっているとしたら、どうでしょうか?
社員が育たない、本当の理由
社員を思ってかけた言葉が、実は「自立」を阻害していることがあります。
たとえば、次のような言葉。
「なんでこんなこともできないの?」
「そんなの、自分で考えろよ」
「もう少し責任感を持て」
「それは君の問題でしょ」
一見「指導」に聞こえるこれらの言葉ですが、実際は「自分の理想」と「現実の社員」とのギャップに対する、社長自身の感情の吐き出しであることが少なくありません。
そうした言葉を浴びた社員は、
「自分には無理なんだ…」
「もう何をしてもダメなんだろうな」
「怒られないように、最低限だけやろう」
と、思考と行動を止めてしまいます。
結果として、“育てるつもり”が“潰してしまっている”という、悲しい現象が起きてしまうのです。
「指導」のつもりが、社員の自立を妨げる構造
本来、指導の目的は社員の自立を支援することです。
ところが現場では、こんな悪循環が生まれがちです。
仕事を任せる
思い通りに進まない
社長が手を出す、または強く注意する
社員が萎縮する
社長が「やっぱり任せられない」と感じる
さらに任せなくなる
社員は「何をしても評価されない」と感じ、動かなくなる
こうしたループに陥ると、社員は自分の頭で考えることをやめ、「とりあえず怒られないように」動くようになってしまいます。
失敗できない環境が、すべてを止める
社員が考えない、動かない、工夫しない。その原因は、能力や意欲ではありません。
最大の要因は、「失敗できない空気」です。
「上司に怒られるかも」「迷惑かけたらどうしよう」「責任取らされたら嫌だな」といった不安が、挑戦を止めるのです。
そして、その空気は、社長自身の口癖や態度から作られていることが多いのです。
「なんで失敗したんだ?」
「言った通りにやればよかったのに」
「こんな簡単なこと、なぜできないの?」
こうした言葉が社員の思考を停止させ、「どうせ何をやっても怒られる」という学習につながっていきます。
人を育てるとは、「問いを投げること」
もし本当に社員の成長を支援したいなら、こちらからの“問いかけ”を意識することが効果的です。
たとえば、次のような問いが有効です。
「どう考えたの?」
失敗しても、まずは相手の意図を聞いてみる。そこには、その人なりの工夫や判断が隠れているかもしれません。
「次はどうしたい?」
失敗を責めるよりも、「次はどうする?」と未来に目を向けることで、本人が前向きに考えるようになります。
「何があれば、もっとやりやすくなる?」
問題の本質は、個人の能力ではなく、職場環境にあることも多い。問いを通じて、社員自身が改善の主体になっていきます。
「任せて、見守る」ことは、最も難しい育成
社長にとって「信じて任せる」ことはとても怖いものです。失敗すれば、最終責任は自分に返ってくるからです。
でも、そこを乗り越えなければ、人は本当の意味で育ちません。
社員が失敗したとき、即座に手を出すのではなく、
考える時間を与える
やり直す機会をつくる
相談する余地を残しておく
そうした“見守る”姿勢を保てるかどうかが、育成の大きな分かれ道なのです。
育成は「支配」ではなく「共創」
ある経営者の言葉が印象的です。
「昔は、“俺が教えてやる”という気持ちだった。でもそれって、“俺のやり方を押しつけてるだけ”だったんですよね」
「今は、“この人はどんな可能性があるんだろう”と観察するようになった。そうしたら、社員が自分で考えて動き出したんです」
育成とは、「教えること」ではなく、「信じて、共に可能性を育てること」です。
まとめ:育てているつもりが、潰していないか?
「育成」が、社員にとっては「否定」や「萎縮」になることがある
真の育成とは、指導ではなく、支援と問いかけ
ゴールは「自律」と「挑戦」
社員の可能性を“信じて、任せて、見守る”覚悟が、経営者には求められる
次回は、「“人を見て動け”が、現場を混乱させる」というテーマで、属人的な判断が組織を不安定にするメカニズムを掘り下げていきます。お楽しみに。