― 経営の“見えない仕組み”を整えるという挑戦
■ ハード面の仕組みだけでは、会社は動かない
ルール、制度、組織体制――これらはいわば「会社の骨格」です。
経営者が“仕組み化”を進めるとき、多くの場合、このハード面の整備に力を注ぎます。
しかし、どれほど立派な制度を作っても、現場がそれを「運用しない」「続かない」ことがあります。
なぜでしょうか。
答えは単純です。
“人の感情”というソフト面が動いていないからです。
仕組みとは、機械のように命令すれば動くものではなく、人の意思と感情を前提にした生きた構造です。
だからこそ、制度だけ整えても「空回り」してしまうのです。
「仕組みは人の感情で止まる」
■ 感情が動かない組織では、仕組みは“冷たい箱”
たとえば、「報告・連絡・相談を徹底する」というルールを作ったとします。
しかし、社員が「怒られそう」「面倒だ」「上司が聞いてくれない」「意味が分からない」と感じていれば、そのルールは形骸化します。
つまり、“仕組みの成否”を決めるのは、ルールそのものではなく、ルールを運用する人の感情なのです。
不安を感じる
評価されたい
面倒に感じる
上司への信頼がない
必要性が分からない
これらの感情が、ルールの実行を左右します。
経営者がソフト面を理解せずに仕組みを作ると、制度が社員の心を縛る「檻」になることさえあります。
「制度が“檻”になる」
■ ソフト面の仕組み化とは、“人を動かす仕組み”を作ること
ソフト面の仕組み化とは、感情や行動の流れを意図的にデザインすることです。
たとえば以下のような構造を設計していきます。
| 項目 | 目的 | 仕組みの例 |
|---|---|---|
| 感情 | 安心・納得感を生む | 1on1ミーティング、称賛文化の仕組み |
| 行動 | 習慣化・実行率向上 | 朝会・振り返り・小さな成功体験の共有 |
| 価値観 | 組織の一体感を生む | ミッション・ビジョンの再確認、ストーリーテリング |
このように、「どうすれば人が気持ちよく動くか」を前提に設計するのがソフト面の仕組み化です。
これは心理学や行動経済学の領域にも通じる、非常に繊細で“人間的”な設計です。
「人の感情が仕組みを動かす」
■ 経営者が見落としがちな「感情の設計」
経営者は「人の気持ち」に踏み込みたがらないことが多いものです。
なぜなら、測れない・見えない・管理できないからです。
しかし、ここを避け続けては、いつまでも「仕組みが定着しない会社」から抜け出せません。
感情を設計するとは、決して「感情をコントロールすること」ではありません。
社員が自然に「やってみよう」「続けたい」と思える状態をつくることです。
たとえば:
指摘ではなく「承認」から始める
成果よりも「努力」を言語化して称える
会議で“意見を出した人”を褒める文化にする
その仕組みを作った背景や意図も伝える
これらはすべて、感情を設計する仕組みです。
そして、これがある会社では、社員が自然に動き始めます。
■ 仕組みの“魂”は人に宿る
最後に、最も大切なことを。
仕組みは、どれほど洗練されていても、人が信じなければ動かないということです。
「人は仕組みを動かすためにいるのではない。仕組みは人が動きやすくするためにある。」
この視点を失った瞬間、制度は冷たくなり、会社は鈍化します。