― 数値が人を縛り、会社を止めるとき ―
■「数字で動かす」仕組みの限界
多くの経営者が口にする言葉があります。
「数字で見える化すれば、社員は動くはずだ」と。
確かに、数字は客観的で、公平に見えます。
しかし、その数字が「目的」になった瞬間、組織は静かに腐り始めます。
KPIを掲げたのに、誰も主体的に動かない。
評価制度を変えたのに、雰囲気が悪くなった。
「仕組み化したのに成果が出ない」と嘆く社長が増えています。
誤解のないようにお伝えすると、KPIを掲げることが悪いということではありません。
KPIを設定した目標設定は、様々な組織で使われておりしっかりとした仕組み化の手段の1つです。
実はその原因、仕組みそのものではなく、“仕組みの使い方” にあります。
■KPIが「思考停止」を生むとき
KPIは、進む方向と目的地までの距離を示すコンパスです。
しかし、いつの間にか「ノルマ」に変わってしまうことがあります。
・数字を達成するために、ムリやり帳尻を合わせる
・本来の目的(顧客満足や品質)を犠牲にする
・数字に追われ、考える余裕を失う
・指示された事だけで動き、思考が短絡する
この状態が続くと、社員はこう感じます。
「結局、何をやっても数字で評価される」
「どうせ言われた通りにやるしかない」
こうして、数字が人を動かすどころか、“考える力”を奪うのです。
■評価制度が「信頼」を壊す瞬間
次に、評価制度。
公平さを保つために設計された仕組みが、
なぜか「不満」を生み出す原因になっていることがあります。
たとえば、
・努力が数字に反映されにくい職種
・チームで成果を上げたのに個人評価だけが重視される
・評価が上司の主観に左右される
このような制度の下では、社員は“競争”を意識しすぎて、
**協働(=チームで成果を出す)**ことが難しくなります。
制度を変えたはずなのに、社員が「自分のことしか考えない」ようになっていませんか?
それは制度が悪いのではなく、制度が信頼の上に乗っていないからです。
■人が動くのは「仕組み」ではなく「納得」
人は、ルールや制度で動くわけではありません。
「なぜそれをやるのか」が腑に落ちたとき、初めて動きます。
KPIも評価制度も、“納得の文脈”がなければ、ただの監視ツールにしかなりません。
どんなに優れた仕組みでも、「その数字は、誰のための数字なのか?」が説明できなければ、
社員にとっては“意味のないルール”になります。
■仕組みを「支配」ではなく「対話」の道具に
経営者がやるべきは、仕組みを導入することではありません。
仕組みを通じて、対話を生み出すことです。
・このKPIは何のために存在するのか
・評価の基準はどんな価値観に基づいているのか
・数字を上げることと、顧客を喜ばせることは一致しているか
これらの問いをチームで話し合うことが、“心理的安全性”のある仕組み運用の第一歩です。
■経営者への問い
あなたの会社のKPIは、社員を動かしていますか?
それとも、社員の“思考”を止めていますか?
仕組み化とは、人を縛ることではなく、人が安心して挑戦できる「土台」を作ること。
数字や制度を“武器”にせず、“会話のきっかけ”に変えられるかどうかが、経営者としての力量を問われる時代です。
■まとめ
優れたKPIも、使い方を誤れば“思考停止”を生む
評価制度は、信頼が前提でなければ機能しない
仕組み化の本質は「管理」ではなく「対話」である
社員が動かないのは、怠慢ではありません。
仕組みの“目的”を見失ったとき、誰も動けなくなるのです。