「空気の支配者」になっていないか
経営者にとって、組織の心理的安全性は「業績を生み出す基盤」です。しかし、その心理的安全性を最も壊しやすいのも、経営者自身です。多くの場合、それは意図的ではなく「無意識のクセ」として表れます。
社員は社長の一言や仕草に敏感で、それを組織全体の“空気”として受け止めます。本人が軽い冗談や何気ない一言のつもりでも、社員にとっては「否定」「抑圧」「恐怖」に変換されることがあります。
今回は、心理的安全性を壊す経営者の3つのクセを整理し、どう意識を変えればよいのかを考えていきます。
クセ① 「否定から入る」
経営者に多いのが、提案や意見に対して無意識に「いや、それは違う」「でも…」と返してしまうパターンです。
特に経験豊富な社長ほど、自分の成功体験や直感を頼りに即座に判断しがちです。しかしこの「即否定」が積み重なると、社員は次第に意見を出さなくなります。
社員の心理
「どうせ社長に否定される」
「正解を持っているのは社長だから、自分が考えても無駄」
「出しゃばらないほうがいい」
結果
議論が深まらず、意思決定は社長の頭の中だけで完結してしまいます。社員は単なる“作業員”となり、自律性や主体性は失われていきます。
対策のヒント
まずは「なるほど」と受け止める
質問で掘り下げる(例:「そのアイデアの狙いは?」)
「否定」ではなく「補足」として自分の意見を述べる
クセ② 「完璧を求めすぎる」
優秀な経営者ほど「高い基準」を持っています。もちろんこれは組織の成長に不可欠な要素ですが、過度に“完璧”を求めると逆効果になります。
社員の心理
「ミスをしたら責められる」
「100点を取らないと怒られる」
「無難な仕事だけをしておこう」
結果
社員は新しい挑戦を避け、イノベーションは起こらなくなります。「安全性」はあっても、それは“萎縮した安全”であり、本来の心理的安全性 ― 自由に挑戦できる空気 ― とは真逆になります。
対策のヒント
「失敗しても学びになればOK」と言葉で伝える
ミスを責めず、原因分析と改善に焦点を当てる
完璧さではなく「成長の軌跡」を評価する
クセ③ 「沈黙で支配する」
意外に多いのが「何も言わない」ことで空気を支配してしまうケースです。
会議で社員の意見を聞いても、社長が無言で腕を組んでいるだけで、場は一気に凍り付きます。
社員の心理
「社長は怒っているのでは?」
「何を考えているのか分からない」
「発言しない方が身のため」
結果
発言は表面的になり、建前や無難な意見だけが並ぶようになります。経営者が望む“本音の議論”は生まれません。
対策のヒント
小さくても「うなずき」や「相槌」で反応する
「面白いね」「もっと詳しく聞きたい」と口に出す
沈黙は意図的に使う(考える時間を与える)ことを明示する
経営者自身が「無意識のクセ」を意識する
心理的安全性を壊す経営者の3つのクセは、いずれも本人は“良かれと思って”やっていることが多いのです。
経験豊富だからこその「即否定」
成長を願うからこその「完璧主義」
考えをまとめるための「沈黙」
しかし、その行動が社員にどう受け取られるかは別問題です。経営者が「自分は無意識に場を支配していないか?」と自問することが、心理的安全性の第一歩になります。
まとめ
心理的安全性を壊す経営者の3つのクセ
否定から入る
完璧を求めすぎる
沈黙で支配する
いずれも「悪気なく」やってしまいがちな行動です。しかし、その積み重ねが社員の口を閉ざし、組織の可能性を狭めてしまいます。
経営者が自らのクセを意識し、言葉や態度を少し変えるだけで、組織の空気は大きく変わります。心理的安全性は制度やルールで作られるものではなく、日々の経営者のふるまいから生まれるのです。