― 成果よりも“顔色”を見る組織の末路 ―
「萎縮」が起きると、学びも挑戦も止まる
ある中小企業の製造部門で起きた出来事です。
新卒2年目の社員が、改善提案として「もっと現場の作業動線を見直した方が効率が上がるのでは?」とミーティングで発言しました。
するとベテラン社員が「そんなの前からやってる」と冷たく言い放ち、以後、その若手は一切意見を言わなくなりました。
これは決して珍しい話ではありません。
心理的安全性が低い職場では、社員は「意見を言えば叩かれる」「怒られるくらいなら黙っていた方が良い」と考え、自ら学びに行かなくなり、現状維持の殻に閉じこもります。
これは社員の「意識の低さ」ではありません。
環境がそうさせているのです。
誤った“優しさ”が成長の芽を摘むこともある
心理的安全性というと、「なんでも言える職場」「叱らない職場」と誤解されることがあります。
実際、管理職や社長から「うちは皆仲良しですよ」と言われることもありますが、よくよく話を聞くと、ただの“なあなあ”の関係だったりします。
表面的には争いがないけれど、誰も本音を言わない。
建設的な意見も出ないし、ダメなことをダメと言う人もいない。
このような“平和な空気”の職場では、かえって挑戦が生まれません。
心理的安全性とは、「指摘しても大丈夫」「異なる意見を出しても否定されない」ことです。
それは時に厳しいフィードバックも含みます。
しかし、そうしたやり取りが「人を否定するのではなく、行動を良くするため」だと信頼されている環境が、安全性の高い職場なのです。
恐怖が支配する組織の“成長の天井”
たとえば、部下が上司の顔色を見て動くようになると、意思決定の質は一気に落ちていきます。
本来は「お客様にとってどうか」「生産性が上がるか」で考えるべきところを、「上司に怒られないか」で判断してしまう。
これは企業として非常に危険な状態です。
社内に「正しい情報」が上がってこなくなるからです。
現場で何が起きているのか、失敗や課題があっても、それを報告することで自分が責められると感じてしまえば、誰も口を開かなくなる。
これでは、社長がいくら現場改善の旗を振っても、実態は何も変わりません。
「安心して失敗できる場」が、変化に強い組織をつくる
心理的安全性が高いチームでは、メンバーが自ら失敗を語ります。
「この前こんなミスをしたけど、こう直しました」とオープンに話せるのです。
これが他の社員への学びになり、組織全体が成長していきます。
ある製造業の現場では、「ヒヤリハット共有ミーティング」を週1回実施しています。
その場では、起きたトラブルを責めるのではなく、なぜ起きたのかを全員で考え、再発防止策を出し合います。
最初は萎縮していた社員たちも、数か月後には積極的に意見を出すようになりました。
ミスを通じて現場がどんどん改善される。
まさに、心理的安全性が“変化のドライバー”になっているのです。
社長がつくる「安心」とは何か?
では、心理的安全性はどうすれば育まれるのでしょうか?
結論から言えば、まずは経営者・上司自身が「弱みを見せること」「否定しないこと」から始めるしかありません。
「社長も間違えるんだ」「課長も知らないことがあるんだ」
そう思えることで、部下は「自分も聞いていい、言っていい」と感じられるようになります。
つまり、心理的安全性の第一歩は、「社長が完璧であろうとしないこと」なのです。
最後に:人が動けば、組織は動く
心理的安全性の低い職場は、社員が「ただ黙って言われたことだけをやる」ようになります。
言われたことしかできない人材しか育たない組織は、残念ながらいずれ競争力を失っていきます。
逆に、意見を出し合い、失敗を学びに変え、挑戦を称賛し合える組織は、どんな時代の変化にも対応できます。
そしてその原動力となるのが、「心理的安全性」なのです。