社員が口を閉ざす理由

― 経営者が最初に知るべき“沈黙のサイン” ―


■ なぜ社員は、言いたいことを言わなくなるのか?

ある中小企業の経営者が、こんな相談をされました。

「現場で何が起きているか、後にならないと分からないんです。
トラブルも、ミスも、いつも事後報告。報・連・相が足りないと叱っても、改善しないんです」

この話、珍しいものではありません。多くの経営者が「社員が言ってくれない」と感じています。
ですが、社員が**本当に“言わない”のでしょうか。
それとも、
“言えない空気”**をつくっているのは、経営者自身かもしれない。
この問いから、本連載は始まります。


■ 「心理的安全性」というキーワード

あなたの会社では、社員がこう思える場面がどれくらいあるでしょうか?

  • 「このアイデア、どう思いますか?」と自信を持って提案できる

  • 「これはうまくいかなかった」と正直に失敗を報告できる

  • 「それは違うのでは?」と役職や年齢に関係なく意見できる

これらが可能であるためには、社員が安心して発言できる状態が必要です。
この状態のことを、「心理的安全性」と呼びます。
もともとは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、
その後、Googleの「生産性の高いチーム」に関する研究で最重要要素とされたことで、一気に注目されるようになりました。


■ 経営者が見落としやすい「沈黙のサイン」

心理的安全性が失われると、社員は「言っても無駄だ」と感じて口を閉ざします。
しかもそのサインは、はっきりと見える形ではなく、“空気”のように忍び寄ります。

以下はその典型的な兆候です:

  • 会議での発言が減り、議事録には「特に意見なし」が並ぶ

  • 若手社員がベテランの顔色ばかりうかがっている

  • ミスや遅れが発覚するのが、いつも“あと”になってから

  • 社員同士がその場で議論せず、LINEで愚痴を言い合っている

  • 改善提案制度が形骸化している(紙は配られても誰も出さない)

経営者として日常を見ていて、「そんな空気あるかも」と感じたなら、
心理的安全性が低下している可能性は高いと考えてよいでしょう。


■ なぜ経営者は“沈黙”の原因に気づきにくいのか

社員が口を閉ざしているのに、経営者は「オープンな会社だと思っている」ケースもよくあります。
このギャップはなぜ起きるのか?

それは、経営者の周囲には“心理的安全性が高く見える層”しか残らないからです。

たとえば:

  • 社歴の長い社員

  • 自分の意見をうまく表現できる社員

  • 空気を読んで経営者に合わせられる社員

こうした人たちは、経営者と直接コミュニケーションできるため、あたかも「うちは何でも言える職場だ」と錯覚を起こします。

しかし、本当に言ってほしい情報や意見は、そうした層の外側にあるのです。


■ 社員が“本音を言わない”のは、会社を諦めているから

「何かあったら言ってね」と言っても、社員が本音を言わない。
その理由は、「言ったけど変わらなかった」「否定された」「面倒だと思われた」など、過去の経験が関係しています。

これは言い換えれば、

社員はすでに、会社に対する“期待”を手放している状態

です。
つまり、心理的安全性の低下とは「信頼の減少」であり、それは沈黙という形で現れます。


■ 経営者ができる“第一歩”は何か?

では、どうすればいいのでしょうか?

制度を変える前に、組織図をいじる前に、経営者ができる第一歩があります。
それは、

自分の「受け止め方の姿勢」を見直すこと

です。

たとえばこんな場面です:

  • 社員が「こう思う」と言ったとき、すぐに「でもさ」「それは違う」と返していないか?

  • ミスを報告されたときに、「なぜこんなことに」と責めるような言い方をしていないか?

  • 雑談の中で「そんなのムリでしょ」と夢を笑っていないか?

意図はなくても、「話しても意味がない」と思わせてしまう言動は、誰しも日常に潜んでいます。
まずは聴く。受け止める。遮らない。評価しない。
それだけで、少しずつ空気は変わっていきます。


■ 心理的安全性は“土台”である

最後にもう一度、強調したいことがあります。

心理的安全性とは、社員に優しくすることでも、厳しさを捨てることでもありません。
それは、挑戦ができる、発言できる、意見がぶつかる場を、安心して生き抜ける土台をつくることです。

この土台がなければ、組織の生産性は上がらず、離職率がじわじわ上昇し、経営の意思決定もズレていきます。
経営者の最大の責務は、この土台を意図的に“つくる”ことなのです。



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