― 社長が信じてきた“マネジメント常識”が、今の組織を壊している ―
中小企業の経営者から、よくこんな言葉を耳にします。
「もっと厳しく管理しなきゃ、社員がだらける」
「目を光らせていないと、手を抜かれる」
「俺がいないと回らないんだよ」
こうした発言の裏には、「社員は放っておくと動かない」という前提があります。だから「ちゃんと見張って」「ちゃんと管理して」動かさなければならない――。
でも、それは本当でしょうか?
■ 管理とは「支配」か?「支援」か?
まず、「管理」という言葉の意味を分解してみましょう。
「管」は流れを制御すること(例:水道管)、「理」は理屈や論理をもって秩序を保つこと。
つまり、「管理」とは本来、秩序を保つために流れを整えることです。
しかし、現場で起きている“管理”はどうでしょうか?
・毎日業務報告を提出させる
・休憩時間を監視する
・作業のやり方を細かく指示する
・自分の目が届かないと不安になる
これは、管理というより“支配”に近い状態です。なぜ、こんなことが起こってしまうのでしょうか?
■ 工場モデルのマネジメントの限界
この「管理=支配」という発想の背景には、産業革命以降に広まった“工場モデル”の影響があります。
このモデルでは、
「人は指示されたことを正確に、効率よく実行すればよい」
「計画と命令で動かせば、品質も安定し、生産性も上がる」
という考えが基本です。
つまり、「考えるのは上の人」「動くのは現場の人」という分業構造が前提となっています。
ところが現代は、状況が大きく変わりました。
・仕事のほとんどが「答えがない」「変化が激しい」ものになった
・チームで創造することが求められるようになった
・自律性や納得感がないと人が動かない時代になった
もう、「上が決めて、下が動く」というやり方では、立ち行かなくなっているのです。
■ “ちゃんと管理”すると、社員はバカになる
ある企業では、新人研修として「毎朝ToDoリストを提出する」という制度を導入していました。
一見すると自己管理を促しているようですが、実際には「提出しないと怒られる」というプレッシャーが強く、次のような副作用が起きました。
・とにかく「埋める」ことが目的になる
・曖昧な仕事を避け、明確な作業だけに手をつけるようになる
・上司が指摘しない限り、自分から改善しようとしなくなる
つまり、「管理されること」が習慣化すると、考える力が衰えるのです。
経営者は「自律して動いてほしい」と願いますが、実際には「自律させない環境」を自ら作ってしまっている。これが、管理のジレンマです。
■ 支援型マネジメントという選択肢
では、どうすればよいのでしょうか?
一つのヒントが、「支援型マネジメント」です。
これは、社員をコントロールするのではなく、社員が自分で考え、行動できるように支える仕組みをつくるという発想です。
例えば、
・上司は「答えを教える」のではなく「問いを投げる」
・業務の見える化を進めて、自己管理しやすくする
・評価は「達成」よりも「行動の質」に目を向ける
・指導は「正しさ」より「納得感」を重視する
支援型マネジメントの本質は、「社員を信用する」のではなく、「信頼に足る構造をつくること」にあります。
■ 社長が「管理したくなる」のはなぜか?
ここまで読んで、「理想はわかるけど、現実は甘くない」と感じた方もいるかもしれません。
そう、管理を手放すのは怖いのです。
「サボられたらどうしよう」
「ミスされたら困る」
――それは当然の感情です。
しかし、よく見てみると、その恐れは本当に社員の問題なのでしょうか?
実は、経営者自身の「不安」と「コントロール欲」が、過剰な管理を生んでいるというケースが多いのです。
この話は、次回以降でより深く掘り下げていきます。
■ 管理が文化になると、パワハラが生まれる
「管理が当たり前」という文化が組織に根づくと、やがてそれは暴力になります。
・報告がないと怒鳴る
・成果が出ないと詰める
・自分の期待通りに動かないと裏切られたと感じる
こうして「管理」が「強制」になり、「強制」が「圧」になり、やがてそれがパワハラという構造を生み出してしまいます。
つまり、パワハラは「人の問題」ではなく、「構造の問題」なのです。
■ まとめ:あなたは社員を“支配”していませんか?
・管理とは、「秩序をつくること」であって、「支配すること」ではない
・工場モデルのマネジメントでは、現代の組織は動かない
・過剰な管理は、社員の自律と成長を奪っていく
・支援型マネジメントこそ、パワハラを根本から防ぐ手段である
次回は、「あなたが社員をコントロールしたくなる理由」について、
経営者自身の内面にある“恐れ”と“支配欲”に焦点を当てていきます。