― パワハラは「悪意」ではなく「構造」から生まれる ―
「うちにはパワハラなんてないよ」
中小企業の経営者と話をしていると、よく耳にする言葉です。
「うちは家族みたいな雰囲気でやってるからさ」
「みんな仲いいし、何かあったら言ってくるよ」
「厳しく言うことはあるけど、あれは指導だから」
――本当にそうでしょうか?
たしかに、あなたに悪意はない。
社員のことを思って、厳しく伝えることもあるでしょう。
そして多くの経営者は、それが「当然」であり「必要なこと」だと信じています。
でも、だからこそ危険なのです。
誰も「パワハラを受けました」とは言わない
パワハラが起きている会社の多くで、被害者は黙っています。
なぜなら、発言すれば「空気が悪くなる」「逆に自分が責められる」からです。
小さな会社であればあるほど、そのリスクは大きい。
加えて、経営者が日々忙しそうにしていたり、
自分の意見を否定された経験があったりすると、
社員はどんどん「何も言わない方がラクだ」と学習します。
結果として、表面上は平和に見えるのです。
でも、その裏で誰かが心をすり減らし、
退職を考えているかもしれません。
「辞めるほどのことじゃない」でも辞める
ここで一つ、実際にあった話を紹介します。
ある若手社員が、入社からわずか半年で退職しました。
理由を聞いても、「家庭の事情で…」と口を濁します。
でも、その後の同僚へのヒアリングでわかったのはこうでした。
「毎日、社長が当たり前のように『こんなこともできないのか』と言っていた」
「会議で意見を言うと、『生意気言うな』と一蹴される」
「そのくせ、何が正解かは教えてくれない」
つまり、表向きは「指導」でも、本人には“人格否定”に感じられていたのです。
しかもそれは、経営者にとっては“普通の言葉遣い”だった。
このようなケースは、実は珍しくありません。
「辞めるほどのことじゃない」と思っているのは、経営者だけなのです。
社員の“心の声”を聞く機会はありますか?
ここで、自社の現状を少し見つめてみてください。
・社員が本音を言う場があるか?
・会議で、経営者に対して意見が出ているか?
・失敗を報告したとき、責める空気がないか?
・「やる気が感じられない社員」が実は“萎縮”していないか?
もし、どれか一つでも「ない」「わからない」のであれば、
それはすでに「心理的安全性が低い職場」になっている可能性があります。
パワハラは「悪い人」がするのではない
ここで誤解してほしくないのは、
パワハラは「一部の人格に問題がある人」がやるものではないということです。
むしろ、社員思いで、会社の未来を真剣に考えている“いい社長”ほど、
知らないうちにパワハラ的な言動をしてしまうことがある。
なぜなら、「成果を出さなければ」というプレッシャーがあるから。
そして、「社員を成長させたい」という想いがあるから。
でも、その強い想いが、「指導」という名の圧力になってしまう。
社員の未熟さにイライラするのは当然です。
でも、それをどう伝えるか、どのタイミングで伝えるか――
それを間違えると、「社員を壊す結果」になってしまうのです。
社員の離職の原因は、「人」ではなく「空気」
私が関わったある企業では、2年連続で離職率が30%を超えていました。
「うちはベンチャーだから、合わない人は仕方ない」と社長は言っていました。
しかし、社員への匿名アンケートで明らかになったのは、
「意見を言っても無視される」
「社長が否定ばかりで萎縮する」
「褒められたことが一度もない」
という“職場の空気”そのものでした。
つまり、「誰が悪い」というよりも、「空気が悪い」のです。
パワハラは、人格ではなく構造と文化で起きる。
この視点が、経営者にとって最も重要なのです。
まとめ:気づいていないだけで、もう起きているかもしれない
今あなたの会社で、パワハラは起きていないと本当に言い切れますか?
・社員の目が死んでいないか
・提案が出てこなくなっていないか
・辞めた理由を「本人の問題」と片づけていないか
これらはすべて、見過ごされがちな“赤信号”です。
でも、この信号に気づいたとき、あなたはすでに一歩前に進んでいます。
次回は、「そもそも“管理”とは何か?」というテーマから、
なぜ人を管理しようとすることで、問題が生まれるのかを深掘りしていきます。