中小企業のDXを進めるには

2018年に経済産業省から「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」が公開されて、3年が経過した。大手企業では、多くの企業で取り組みが見えるものの、中小企業においては、一部企業の取り組みとなっているのが実態だ。

本記事では、中小企業でDX・デジタル活用が進まない理由は何か、どうすれば進むのかを考えてみたいと思う。

1)中小企業DXの現状

 下の表は、総務省が発表している令和3年版の情報通信白書から引用したものだ。日本におけるDXの取り組み状況を示すもので、DXの取り組みを行っている企業は大企業では約6割であるのに対し、中小企業では約3割に留まっている。

 多くの中小企業者では、「DXは実施していないし、今後の予定もない」となっている。つまり、半数以上の中小企業は「DXなど必要ない」と考えているということになる。

 

 

 

2)中小経営者がDXに取り組まないのはなぜか

 日本の生産性の低さと労働人口の減少を根拠に、DXの重要性が提唱されている。にもかかわらず、中小企業の経営者は「DXは不要」と考えているのはなぜか。それは、DXの必然性を感じられないからだと考える。

 必然性を感じられないものに投資する経営者はいない。では、これだけDXが叫ばれているのに、必然性を感じていないのはなぜか。

 経営的な課題がないのか、と言うとそういう訳ではない。経営上の課題を聞けば、必ず何か出てくる。しかも、1つや2つではない。

 なのに、DXやIT化の必然性を感じられないのは、DXを行う動機がはっきりしないからだろう。

・今までもやってこれたし、パソコンやスマホも十分に使えてないのに、DXなんて・・・。

・今のままでも十分とは言わないが売上はあるし、取引先の拡大、採用など目先の課題の方が重要だ。

・「ビジネスモデルを変革」や「企業・組織・業務そのものを見直す」ほどの課題は、当社にはない。

・そもそも「トランスフォーメーション」なんて、しなければならないのか。

これらが、根底としてあるのではないだろうか。

 3デジタルから考えるから必然性が分からなくなる

DXをしなければならない」と考えるから、必然性が分からなくなる。DXが提唱された当初、AIやIoT、ロボットを利用することがDXかの様に誤解された。これらは、問題解決の手段であって、目的ではない事はご承知の通りだ。

 

 つまり、DXは、経営課題から考え始めるべきだ。経営課題は、経営資源である人、モノ、カネに関連する、以下の様なもだ。

 ・ヒト(労働時間、メンタルヘルス、人事考課、教育、スキルトランスファー、標準化など)

 ・モノ(製造、販売、仕入れ、オペレーション、品質、など)

 ・カネ(売上、費用、キャッシュフロー、など)

 

 DXはこれらの単一課題を改善することに加えて、情報・データの流れに着目し、全体としての変化を見据えるものだ。

 当然、全てのことがデジタルで解決できる訳ではないが、データを取れないか、データで判断できないか、といったことを基本に考えることがこれまで以上に重要になってくる。

 例えば、熟練した従業員や経営層の経験と肌感覚で対応していたことを、なるべく数値化する様に考える。データにする事で、客観的な事実として見ることができ、何を対応するべきかが関係者で共通認識を得やすくなる。また、データに基づいて行った施策は効果を客観的に判別でき、軌道修正が早くなる。外部環境の変化が早くなり、内部環境も多様化が進んだ現代では、トライ&エラーをいかに早く行えるかが重要になる。

 DXとはこれを実現することを指していると考える方が適切だ。

 

 

4)何から行うのが良いか

 DXに限らずIT化を進める上でも、まず何から行って良いか分からないという声が多い。何から手を付けて良いか分からないのは、今、事業で何を行っているか、何が課題かが把握できていないからだ。

 「そんなことはない!」と経営者は強く否定されるだろう。しかし、分かっているのは、「おおよそ」「感覚的に」ではないだろうか。「把握できている」というには、数値とフローで管理できる必要がある。つまり、見える化が必要だ。

・現在、お金を作り出しているコア事業がどのようなフローで成り立っていているか。

・どの様なオペレーションで行われていて、どこの工程を何人、何時間で行っているか。

・どれだけの販売数、在庫数、仕入れがあるか。

・客数(取引先数)、販売数は平常とピークでそれぞれどれだけあるか。

・顧客から支持されてる商品・サービスはどのようなものか。

・それぞれの情報が、どこで管理されていて、誰が入力し、誰がアウトプットして使っているか。

 といった具合だ。

 それらが、経営目標を達成できる状態になっているか。もしくは、目標達成に近づくような状況に改善されていっているか。

 こういったことを、経営者の肌感覚ではなく、データを取って客観的にとらえることがスタートになる。

 

6)まとめ

   DXは以下の様に定義されている。

 デジタルトランスフォーメーション 

(世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画より)

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。

 DXはデジタルを使うことが目的ではない。外部環境の変化をとらえ、それに応じて内部も適応していく。さらに、顧客への提供価値を高め、競争力を得る。そのために、デジタル、データを活用しようというものだ。

 これまで、経営リソースの大きさが競争力の源泉であったが、これからは、ニーズの変化が早く、多様化し、対応が難しくなった市場(VUCA)に、どれだけ適応するかが競争の優位性になる。

 中小企業者としては、自社の成長にとってこれ以上ないチャンスと捉えるべきだろう。

 

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